人間の意識を顕在意識と潜在意識(または意識と無意識)に分ける考え方は、19世紀に確立しました。
サブリミナル(subliminal/意識下の、潜在意識の)という形容詞は、一昔前に「サブリミナル効果」の言葉でよく知られるようになりましたね。
ふたつの「意識」の違いと、これらがどうつながり、どう働くのかを見ていきましょう。
顕在意識と潜在意識
意識のイメージは、よく海に浮かぶ氷山に例えられます。水面より上に出ている部分が顕在意識で、意識のうちの表層の部分、通常「自覚できる」部分をさします。
割合としては意識のうちの1割とされています。英語ではconscious mind(意識されている心)などといいます。
潜在意識は氷山でいえば水面より下の部分で、通常「自覚されない」部分をさします。
「無意識」とも言いますが、ここでは意識を失っている状態(眠っている/気絶している状態)のことではなく、起きているときも意識にのぼらない広大な領域のことです。
割合は意識のうちの9割とされています。(ちなみに実際の氷山の水面の上と下の部分の割合も、約1:9です)英語ではsubconscious mind(潜在的な心)などといいます。
顕在意識の特徴
顕在意識は日常経験している意識ですから、私たちは自然にどういうものかを理解しています。大きな特徴として、「一度にひとつのことしか考えられない」ということがあります。
複数のことを平行して考えてるように見えるときは、じつは焦点を合わせる先を瞬時に行き来しているのです。
潜在意識の特徴
潜在意識の働きは自覚されませんが、特徴のひとつに「現状を維持しようとする」というものがあります。たとえば、「無意識に」やってしまう習慣を変えるのはとても難しいものです。
それは過去に蓄積してきた経験や知識からできている潜在意識の特徴であり、言い換えると、慣れていて安全な行動を私たちに「無意識に」させて、リスクから私たちを守っているともいえます
より強力な「潜在意識」
潜在意識は、人間の行動や思考の95%を支配していると言われています。たしかに私たちは、一日のほとんどの行動を「無意識のうちに」行なっています。
歩くことから自転車に乗ること、歯を磨くことなど、毎日行なう行動は自動化されていて、いちいち手順を「意識」することはありません。
そして潜在意識は「ものの考え方・感じ方」にも影響します。
これが顕在意識が行なう判断に影響し、実際の行動につながり、ひいてはその行動の結果につながります。ですから、潜在意識にあるものは私たちの人生を左右すると言っても過言ではありません。
顕在意識のつながりで潜在意識を変える
「もっとポジティブな考え方できたらいいのに」「もっと体にいい習慣を身につけたいのに」というとき、なかなか変わらない潜在意識は手ごわい敵のようにも思えます。
また、潜在意識はそれこそ「無意識のうちに」環境などの影響を受けるので、コントロールもしにくく感じられます。
しかし、自覚して使うことができる「顕在意識」の行動によって、間接的に潜在意識に影響を与えることはできます。潜在意識が影響を受けるものを、「意識のある」、つまり顕在意識が働いた状態で選ぶのです。
「意識して」なされた選択や行動が繰り返されると、それが潜在意識のなかに刷り込まれていきます。先ほどの氷山を思い出してください。
上部で繰り返したものが、水面下の潜在意識に蓄えられていくイメージです。
そもそも潜在意識はそういった「過去のデータ」に基づいたものですから、それに新たなデータを加えていく、あるいはデータを書き換えていくことで、自然と潜在意識も変わっていきます。
たとえば、人は音楽や色の影響を受けます。「こういう気分になりたい」というときに、それにふさわしい音楽を聴くことはよくあると思います。
同じように、「日常的にこうでありたい」という状態にふさわしいものを「意識して」選ぶことは、潜在意識を変えていくことにつながります。
たとえば「落ち着いていたい」のであれば、意識して「落ち着こう」と深呼吸したり、気分が落ち着く色を身の回りに使うなどの工夫で、実際に落ち着いていられる回数・時間を増やせます。
そうすれば、行動の結果も変わります。それが繰り返されると、経験が潜在意識に落とし込まれ、自己像が変わります。「自分はそうしてあたりまえ」になるのです。
自己啓発系の考え方では、よく「なにかになりたかったら、すでにそうであるようにふるまえ」などの言い方で、同じ効果が語られています。
眉唾もののようにも聞こえますが、潜在意識を変えるという視点で見れば、べつに魔法ではありません。
これは「意識して」理想的な状態であるように行動することを繰り返し、自然にその状態での考え方・判断をできるようになり、行動の結果を変えていく、という同じサイクルなのです。
なぜ時間がかかるのか
ここで思い出しておきたいのが、潜在意識は「現状を維持しようとする」という例の特徴です。
これは、「潜在意識のデータがすでに膨大なので、少しの影響では変化が表れない」ということでもあります。(子供のほうが新しいものに順応しやすいのは、そういうわけです)ですから、顕在意識を通して潜在意識を変えるには、時間がかかるのが当たり前なのです。
潜在意識を変えるには、最初の「意識した行動の繰り返し」に一番エネルギーが必要で、時間もかけるべきところです。ほとんどそれがすべてともいえます。この時期には「早くたくさん」ではなく、「少しをゆっくり、繰り返す」ことが大事です。
書き込むデータの量よりも、データの追加・書き換えの作業自体に潜在意識を慣らすのが目的だからです。
慣れていくと、潜在意識は「現状を維持=同じことを続ける」性質がありますから、負荷はどんどん軽くなり、今度はそれを止めるほうが難しくなります。データ量をこなすのはそこからでいいのです。
潜在意識の特性を利用したものごとの改善法・解決法などは、現在いろいろなところで目にすることができます。
しかし実は、「潜在意識」という言い方が定着する前から、同じことが人生訓や技術を身につけるための知恵として語られてきました。
一見地味な「繰り返す」「練習する」という行動は、顕在意識を通して潜在意識を変えることにほかなりません。
顕在意識を味方につける
私たちが「意識して」行なえるのは、顕在意識での行動や思考だけです。「顕在意識」の「一度にひとつのことしか考えられない」という特徴を、ぜひ生かしてください。
一瞬一瞬の選択が、潜在意識にデータを与えます。
そして「潜在意識」は「現状を維持しようとする」ことをふまえて、さまざまなTipsを利用してみてください。必要な時間をかけて行なうそれらは魔法ではなく、理にかなったことなのです。