子どもが幼稚園で友達に噛みついた、大人なのに爪を噛むのをやめられない……などなど、「噛み癖」に関する悩みはいろいろあります。
噛み癖自体は多く見受けられることであり、決して異常なことではありません。
しかし「癖」で片付けられるものか、専門家の助けを受けるべき「病的」なものかは、「制御できるかどうか」や「それによる不都合の度合い」によりさまざまで、区別する明確な線はありません。
しかし「噛み癖」には見た目の見苦しさとともに衛生面の問題もあり、奨励できない行為なのはあきらかです。ここでは噛み癖の裏に隠された心理と、噛み癖を克服するための対処法をお伝えします。
ときどき噛む「口唇欲求行動」
哺乳類は、「母乳を吸うのに似た行為」に安心感を覚えます。ペットの猫や犬が成獣になっても親の乳首を吸ったり、飼い主の指を吸ったりするのを見たことがある方も多いと思います。
これは口唇欲求行動と呼ばれるものです。同じ哺乳類である人間でも起こり、自分の爪などを噛むのもこのバリエーションで、「安心感を得たい」という欲求の表れです。
子どもの場合は特に多く、自分の指や爪を噛む、服の袖を噛むなどの行動を見せることがあります。そういうときは、「寂しさ」や「不安」、「いらだち」などを感じています。
たとえば、親に充分関心をもたれていないと感じたときなどがあげられます。
大人になるにつれ減っていきますが、大人でも強い不安を感じたときや、イライラしたときに無意識に爪を噛んだりすることがあります。
いずれも自分を安心させたいという心理の表れです。噛むことで一時的に解消していますが、大人の場合は、他者から見て幼児性を感じさせることも問題になります。
特に他者の視線を浴びる受付などの仕事や、信頼を得るのが大切な営業などの仕事では避けたいことです。
ときどき噛む「口唇欲求行動」への対処法
たまに起こる「噛み癖」の多くは、一時的な不安やいらだちが原因です。ですからそれを解消すること、原因をなるべく減らすことが大切です。
子どもの場合は、親との充分なコミュニケーションが取れていない場合が原因として多いです。「よくない行為」だと教えたうえで、まめに子どもの話を聞く、スキンシップを増やすなどを通して絆を深め、子どもを精神的に安定させることが効果的です。
大人の場合は、子どもの場合と同じように精神面の安定をはかることも大切ですが、無意識に指先や爪を噛んでしまうのを防ぐには、自分に意識させるために指に絆創膏を貼ったり、女性の場合はマニキュアを塗るなどもよいアイデアです。
噛んでしまいそうになったときに意識でき、実際に噛むのを防ぐことができます。これをある程度の期間続けると、噛み癖そのものをなくすことができます。
しょっちゅう噛む「常習的な自傷行為」
「ときどき」ではなく「常習的」に、自分の爪など体の一部を噛んで傷つけてしまう場合は、癖というより自傷行為といったほうが適切です。
噛み癖のなかでも悩む人が多い「爪噛み(Nail Biting)」は、アメリカ精神医学会の統計分類では「衝動制御障害(Impulse Control Disorder)」に含まれています。
裏にある心理は、ときどき噛む「口唇欲求行動」の場合と共通ですが、本人が感じている不安やいらだちがより大きく、日常的な欲求不満を抱えていることが考えられます。
また、子どもが自分の爪を小さくなるほど齧ってしまうなど深刻な場合は、親に関心を向けてほしいという心理が自傷という形で出ていることもあります。
大人の場合もベースには子どもと同じ心理があり、家族や恋人との関係がうまくいかない、仕事が思うようにいかないなどの原因から情緒不安定になり、自傷行為につながることがあります。
親や他人の関心を引きたいという心理が働くケースがあるのも子どもと同じです。
ただ、多くの大人がこういった行為をしないのは、成長するにつれて自制心を身につけるためです。ですので、成人が自傷行為をやめられない場合、自制心がうまく機能していないことが考えられます。
しょっちゅう噛む「常習的な自傷行為」への対処法
子ども、大人ともに精神面の安定が大切です。それと同時に、自傷行為自体を物理的に防ぐ処置も緊急に行うべきです。
爪噛みを例にとりますと、苦味のある塗り薬を爪に塗る(『バイターストップ』など専門の薬が市販されています)、専門機関で爪をアクリルで保護してもらうなどの処置があります。
また、自分ひとりの手に負えないと感じたら、心療内科に相談してみましょう。
他人を噛む「エスカレートしたイラダチ・甘え・ふざけた行為 」
「子どもが親や友達を噛む」ということでお悩みの親御さんは多く見受けられます。これには二つのケースがあります。
1つは不安やいらだちがエスカレートして癇癪を起こしているケース、もう一つは、「甘え」や「ふざける行為」がエスカレートしているケースです。「ここまでならいい」という線引きができていないのです。
大人で「他人を噛む」というケースは、子どもの場合とは少し違います。多くは恋人や夫婦など、親密な間柄で起きます。子どもと同様に甘えがエスカレートして噛むケースはありますが、欲求不満や癇癪から噛むことは稀です。「よくない行為」の線引きはできているからです。
ですから、「ここまでやっても受け入れてくれるか」を試す心理があります。また、性的な行為の1つとして親密さを確かめたり、ふざけてしていることもあります。
他人を噛む「エスカレートしたイラダチ・甘え・ふざけた行為 」への対処法
子どもの場合は、「やってはいけないことだ」とその場で教えるのが大切です。子どもに噛まれたらすぐにその跡を見せ、「痛い」「そんなことをされて悲しい」ことを伝えましょう。
子どもが反省してその傷をなでたりしたら、ハグしたり、「ありがとう」などの言葉をかけ、「他人をいたわるのは良い行為」だと体験させましょう。
また、日頃充分なコミュニケーションがとれているか、しつけの仕方に一貫性があるかなども考えなおしてみましょう。知らないうちに矛盾したシグナルを送っていると、子どもは不安といらだちを募らせます。
大人の場合も、パートナーに噛まれて不快なときはきちんと伝えましょう。自分が噛む衝動を感じる場合は、相手が不快でないかを確かめましょう。
相手の気持ちを推し量って制御できないとしたら「衝動制御障害」の範疇になりますが、深刻なケースは稀でしょう。
大切なのは、意志の疎通がうまくとれているかどうかです。「噛み癖」だけを取り出して考えるのではなく、関係全体のなかで考えていくようにしましょう。