フットインザドアとは日本語に訳すと、片足を扉に踏み入れるという意味です。飛び込みの営業マンが、片足をドアの隙間にはさんで、ドアが閉まらないよう押さえているイメージです。
フットインザドアは交渉の心理学とも言われ、上手に使うことで相手に思わず「YES!」と言わせることができます。今回はその概念と使い方についてお伝えしていきます。
大きな要請に応じさせるフットインザドア、その方法とは?
心理学でいうフットインザドアとはまず、はじめに、誰でも応じられるような小さな要求をして承認を得た後で、より大きな本当の要請をするというものです。
例えば、「安全運転」と書かれたステッカーを家や車に貼ってくれるよう要請した場合、そのような小さな要請に応じてくれる人は沢山います。
その後、自宅の庭に「安全運転」と書かれた看板を立ててくれるよう、大きな要請を行います。
すると、本来ならいきなり庭に大きな看板を立てるような要請は大抵断られてしまいますが、「ステッカーを貼る」という小さな要請に応じた後では、大きな看板を立てるという要請に応じてくれる人の割合が高くなるのです。
このように、人にはいったん自分の意志ですすんで受け入れてしまうと、次もまた受け入れてしまうという傾向があります。
このような現象が、フットインザドアと呼ばれるものです。心理学では、他者や物事にかかわり合うことで、自分の立場を表明することを、コミットメントといいます。
人はいったんコミットメントを行うと、以前自分の行った行動に矛盾が起きないように行動してしまうのです。
なぜこのようなことが起こるのか?
それは社会的な存在である人間は、自分の言ったことを守らないと他者からの信用がなくなり、社会的に孤立してしまうからです。
いったんコミットメントを行うと、それについて矛盾のない行動をとるよう、個人的にも対人的にもプレッシャーがかかります。
これは何も「庭に大きな看板を立てる」というような大それたことでなくとも、日常生活によくあるシーンの中にもあります。
例えば、「これから禁煙をする!」と周囲の人たちに宣言しておいてから2・3日後、我慢ができなくなってつい煙草を吸ってしまった所を、たまたま人に見られてしまったという時。
それを見た人は大抵「禁煙したんじゃなかったの?」と、その人に問いかけます。
そのようなシーンにおいて、煙草を吸ってしまった人は大抵「うっかり者」や「全くしょうがないなあ」などといわれ、当人もまたその場ではとぼけてみせて笑い話になるという落ちになります。
一見すると何気ないやり取りですが、煙草を吸ってしまった当人は、他人が思っている以上に罪悪感を感じているものです。
このように、日常生活のほんの些細な事柄でも、いったんコミットメントを行ってしまうと、そのことにプレッシャーを感じるようになります。
フットインザドアの効果によって、このような親しい人同士の間で起きた些細な事柄でもプレッシャーを感じるものですが、さらに公の場でのコミットメントとなると、大勢の人たちに対して自分の体裁を保とうとしてしまうため、その立場を変えることが、その分だけ難しくなります。
応じやすい要請を受け入れてもらってから、後で本当の大きな要求を受け入れてもらうという方法がフットインザドアでした。
この他にも、これの発展的なテクニックであるドアインザフェイスと、ローボールテクニックという2つの方法をこれから紹介します。
ドアインザフェイスとは?
1つ目の方法であるドアインザフェイスとは、フットインザドアとは逆で次のようなものです。
はじめに、あまり応じてもらえないような大きめな要請をします。ここで大抵断られてしまうのですが、これもテクニックのうちの一つです。
その後でより小さい、本当の要請をします。そうすると、小さい方の、本当の要請には応じてくれる割合が高くなるというのが、ドアインザフェイスです。
1つの例として、ボランティアなどを「毎週2時間やって欲しい」と頼んでも断られてしまうことが多いですが、「1日だけ2時間やって欲しい」と頼むと、割合すんなりと応じてくれるようになるのが、ドアインザフェイスのテクニックです。
ローボールテクニックとは?
2つ目の方法である、ローボールテクニックとは次のようなものです。
ローボールテクニックではまず、フットインザドア同様受け入れやすい要請を提示します。
そして承諾を得た後で、メリットを取り除いたり、デメリットを付け加えたりというように、応じてもらったことについて伏せておいたコストを後になって教えるというものです。
入会したものの、予約の取れる時間が限られているという場合や、何かを購入したものの、後になってオプションで他にも色々購入するはめになるというのは、売り手によるこのようなテクニックを使ったものと言えます。
まとめ
以上、フットインザドアをメインに、それの発展的なテクニックであるドアインザフェイスと、ローボールテクニックの3つを紹介しました。
中でもフットインザドアは、先の禁煙の例のみならず、ダイエットをするということや、お金の無駄遣いをしないというようなことを、周りの人に宣言するようなシーンなどというように日常生活によくあることで、身近なものと言えます。