「催眠術」
この言葉に漠然とした興味を感じ、ワクワクとした気分になる人は多いのではないでしょうか。
目の前の人が、意識もなく、催眠術師の言うがままに行動する。嫌いなものも好きなものだと勘違いしたかのように食べられるようになる…。催眠術と聞くと、そんなイメージを持つ少なくないでしょう。
催眠術師に操られているような摩訶不思議な現象に、多くの人が興味を持ちます。
でも一体、その原理はどのようになっているのでしょうか。
誰もが一度は興味を持ったことがある「催眠術」。ここでは、その原理を探ってみましょう。
「意識」と「無意識」
催眠術の原理を理解するには、この「意識」と「無意識」という言葉が重要なキーワードとなります。
「意識」とは「顕在意識」とも呼ばれるもので、今、この文章を読んでいるということが理解できている状態、これは「顕在意識」です。
同時に、顕在意識は理論的・分析的思考を持ち、目の前で起きている事に対して理論的に考えて行動することができます。
一方、「無意識」は「潜在意識」とも言われ、私たちが無意識に行っている部分です。例えば今、心臓を動かしているのは意識的なものではなく、無意識が心臓を動かし、無意識が呼吸を促しています。
理論派・分析好きの「顕在意識」とは対照的に、「潜在意識」は感情的、感覚的、直観思考だと言われています。
感覚が優先されるので、「この人は悪い人かもしれない」というような思考が少なく無批判で相手や物事を受け入れる特徴があると言われています。
この二つの意識―。
私たちが意識できている「顕在意識」は、意識全体の約1～2%で、残り99％近くは「潜在意識」だと言われています。つまりは、私たちは、自分自身のことを「意識」できていないことの方が大半だと言えるのです。
割合からもわかるように、私たちを動かしているものは「潜在意識」です。物事に対してふと湧き上がる感情、「怒り」や「悲しみ」も、この潜在意識が引き起こしているもの。
つまり、「今、悲しいから泣こう」という意識的な行動ではなく、「感情が高ぶって涙がでる」という行動を「潜在意識」が引き起こしているということです。
催眠は、この「意識」に働きかけて引き起こされるものです。
催眠状態とは？
催眠状態は一般的に、「睡眠に似た状態」と表現されます。睡眠に「似た」と表現されるのは、睡眠とは異なるということ。
睡眠中、私たちの意識は「無意識状態」にあります。深い眠りに入っていると、声をかけても、肩をたたいても起きない場合があるのがいい例ではないでしょうか。
催眠は、この睡眠状態とは異なり、「意識」はあるものの、「無意識」との中間に位置しているのです。
つまり、完全に意識がない状態ではなく、「意識」と「無意識」の間、「変性意識状態の一種」と言われています。
寝る前にウトウトしていたり、朝起きたばかりでぼーっとしている状態、あるいは、読書やテレビに集中し、周りの声が入ってこないような状態も、この「変性意識状態」と言われます。
つまり、「催眠状態」は、日々私たちが日常的に体験していることなのです。
しかし、催眠状態で「意識がある」といっても、「変性状態」の入っている私たちには理論的な思考は、うまく働きません。
アメリカの心理学者、アーネスト・ヒルガード（1904-2001）は、人が催眠状態に入った時の特徴の一つとして、「意志的行動に対するよう要求の欠如」というものを挙げています。
つまり、変性意識に入ると、私たちは意志的行動への意欲が減るのです。
その結果、変性意識にある状態で、暗示やある指示を与えると、それに対して自分の意志を貫くよりも、従ってしまったほうが楽、というような判断のもと、その暗示や指示を受け入れることがあるのです。
理論的・分析的な「顕在意識」から離れている結果でもあります。
つまり、これが催眠術の原理の一つだと言えます。
原理の解明
催眠状態に入ることは日常的に行われていると書いたように、「催眠」は決して特異なものではないと言えます。
眠りに入る前のウトウトとした状態は、誰もが体験できるのですから、その時点で暗示などかけられれば「催眠」が成り立つのです。つまり、催眠術の原理は至ってシンプルだと言えるでしょう。
とはいっても、この原理の根本にある「顕在意識」と「潜在意識」の中間にある「変性意識」というものが、目に見えないものであることから、今一つ腑に落ちないところもあるかもしれません。
また科学の発展によって、さらなる解明がされるのかもしれません。
科学では解明できない、目に見えない何かの働きは、時として私たち人類に何かロマンのようなものを感じさせます。催眠の不思議に、多くの人が魅了される続ける理由がそこにはあるのかもしれません。
