「人間万事、塞翁が馬」ということわざをご存知ですか?
これは古くから中国に伝わることわざで、一見良いことに思えた出来事も、実は災いのもとと見ることもできるし、逆に災いのもとと思えた出来事が、思いもよらぬ幸福を招くこともある。
何が幸福で何が不幸かなんて、簡単にはわからない、という意味で使われています。
私たちは日々の暮らしの中で、様々な理不尽や不幸なアクシデントに見舞われます。しかし、不運をただ嘆いていても、無情にも時間が流れ去るだけで、事態はまったく好転しないということもよくあります。
そこで今回は、窮地を打開するための秘策として、窮地をチャンスに変える思考法、リフレーミング理論について、取り上げたいと思います。
この思考法を身につけることができれば、あなたの人生はどんどん好転していくことでしょう。
そもそも、リフレーミング理論とは?
私たちは社会生活を送るうえで、様々なものを認識して暮らしています。
認識とは、あるモノがそこに存在していること、あるいは、あるモノが何であるかを理解することですが、この過程で私たちは、そのモノにまつわる種々の情報を、分類・整理して理解しています。
たとえば、「結婚」について考えてみましょう。ある人はこれを、「幸せ」「人生の目標」「癒し」といった言葉で語るでしょう。これがフレーミングです。
フレーミングとは、あるものに対して、特定の意味や価値を見出し、それをレッテルとして貼り付けること、あるものに対する特定の考え方を構築することを指します。
一方、リフレーミングはその逆、貼られたレッテルを一度はがし、本当にそのレッテル以外に貼ることができないのか別の角度から吟味して、必要に応じて別のレッテルを貼り直すこと、すなわち、ものの見方を変えることを指します。
先ほどの結婚の例で言うなら、「不自由」「人生の墓場」「金銭的負担」といった考え方で、結婚を捉えなおすことを指します。
リフレーミングはもともと心理療法のひとつとして編み出されました。
患者を追い詰める患者本人のフレーミング=ものの見方を一度取り外し、別の角度から問題を捉えなおす、すなわち患者が楽になるようなリフレーミング=ものの見方の再構築をすることで、困難を打開することを目的としています。
リフレーミングの活用法① あなたに合わせて環境を変える「状況のリフレーミング」
それでは、具体的な活用例を見ていきましょう。
内気で繊細なAさんは、学生時代からバスケットボールやサッカーといった、我先にとボールを奪い合う攻撃的な競技は苦手で、社会人になってからも、ついせっかくのチャンスを譲ってしまったり、自分の仕事を差し置いても誰かの仕事を手伝ってしまったりと、損な役回りを引き受ける毎日です。
当然、華々しい成果を上げられず、上司に「やる気あるのか!」と叱られる毎日。一大決心をして強気でタフな人間になろうとしても、慣れない行動に疲れたり、同僚に悪く思われていないか気になったり、責任の重さに不安になったりと、なかなかうまくいきません。
思わず他部署の同期に相談すると、同期からはこんな言葉が返ってきました。
「お前のいいところは、周りの空気を読んだり、人に気を遣ったり、困った奴を放っておけなかったりするところだよ。責任の重さにビビってるのだって、真面目で責任感が強いから、万が一のケースを強く意識してるだけだろ。そういう、協調性があって、真面目で、責任感の強いっていうお前の強みを生かせる部署に変われば、お前はうまくいくと思うよ」
自らの特性に合わせて、状況や環境を変えること、すなわち、ある特定の状況ではマイナスに働く要素が、逆にプラスに働く状況を見つけることを、「状況のリフレーミング」と呼びます。
Aさんに限らず、人は自分の持っている思考パターンや行動パターンをそう簡単に変えることはできません。「周囲は変わってくれない、だから自分が変わるべきだ」とは、よく耳にするフレーズですが、何もこればかりが正論ではありません。
実際の臨床の現場でも、適応障害など環境への不適応をきたす患者さんに対し、環境を変えるという治療法を提案する場合もあります。
特定の場所にこだわらず、自らの弱みを強みとして生かせる場所へ移動してしまうのも、賢いリフレーミングの活用法です。
リフレーミングの活用法② あなたの短所を長所に読み替える「内容のリフレーミング」
そうはいっても、部署異動など簡単にできるものではありません。そこでAさんは、同じ部署の2つ年上の先輩に相談してみることにしました。先輩の意見はこうです。
「俺はうちの部署にお前がいてくれてよかったと思ってるよ。うちは気が強いというか、我先に、っていう奴が多いだろ。ああいう奴は華々しい成果もあげる代わりに失敗も派手だ。でも慎重なお前は派手な成果こそないもののミスも少ない。それに、自分の利益しか考えない奴ばかりだと、職場がギスギスするだろ。だけどお前は周りをよく見てる。俺としては、お前にこのまま残ってもらって、あのギスギスする職場をうまいこと調整していってもらいたいもんだ」
先輩が言うように、環境を変えず、短所を長所として生かすやり方を、「内容のリフレーミング」と呼びます。
この場合だと、Aさんの臆病さや周りに気後れするところを、慎重さや協調性と読み替えることで、同じ環境のまま違った活躍の仕方ができることが示唆されています。
まとめ
いかがでしたか?
環境を変える「状況のリフレーミング」の代表例としては、異動や転職、離婚といった、効果が大きい代わりに大きなストレスのかかる決断や他人の同意が必要不可欠なものが多く、どうしても敷居が高くなりがちです。
一方、環境を変えることなく自分の能力の生かし方を変える「内容のリフレーミング」であれば、身ひとつで今すぐにでも始められる手軽さがあります。
しかし、どちらにも共通するのは「必ずしもこうでなくてはならない」という決まりなどないということ。あなたにはあなたの活躍できる場所や方法があり、あなたは必ずしも理想的な誰かになる必要はないということです。
人間万事、塞翁が馬。あなたをこれまで苦しめてきた数々の辛い思い出も、あなたの新しい活躍のスタイルを提案する吉兆かもしれませんよ。
