ゲシュタルト心理学は、ふだん意識しない「脳のクセ」を私たちに教えてくれます。
このゲシュタルト心理学は、心理現象を個々の反応の集合ではなく一つの全体と考えるのですが、そのベースに、「人は目の前のものをバラバラな部分ではなく、構造のある一つのかたまりとして認知する」という知覚の研究があります。
「ゲシュタルト」はこの「かたまり」にあたり、ドイツ語で形態、状態などをさします。
「かたまりとして認知する」という脳の「クセ」は、あまりに自然に体験されているので、ふだん意識することはほとんどありません。しかし、視覚・聴覚・思考など、さまざまな面に当てはまり、ゲシュタルト心理学はいろいろな分野で応用されています。
「人はそういう知覚をするものだ」と意識することで、他者にわかりやすいレイアウトやプレゼンテーションができたり、自分が錯覚や間違った認識に陥るのを防いだりすることもできます。
今回は、ゲシュタルト心理学の基盤になっている法則からいくつかをご紹介し、日常生活で活用させる例をお伝えします。
ゲシュタルトの崩壊とは
ゲシュタルト崩壊という言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?ただ、どのような現象かきちんと理解している人は少ないと思います。
まずはゲシュタルト心理学の理解を深めるために、ゲシュタルト崩壊についてお伝えします。
私たちは一つの文字を見るとき、全体で一つのものとして認識しています。
しかし、長いこと同じ文字を見つめていると、次第に「まとまりのある全体」の感覚が失われていき、意味のない線のかたまりに見えてくることがあります。
これは「ゲシュタルトの崩壊」と呼ばれる現象の一例です。
私たちの脳は、基本的にこの「ゲシュタルトの崩壊」に違和感を感じます。ゲシュタルトを認識するのは自然なことなので、不自然で落ち着かない感覚が生じるのです。
つまり、私たちはゲシュタルトとして認識できるものを
- 他より優先して認識する
- 受け入れやすい
- 自然に感じる
ということになります。
人間の知覚はカメラのように「そのまま」ではなく、ゲシュタルトの認知のような「脳のクセ」によってフィルターがかかっています。
逆にこのフィルターがあるからこそ、ざわざわした部屋の中でも会話ができたり、大勢のなかから短時間で知り合いを見つけたりできます。
ゲシュタルトを自然に見つけ出すことは、ものをより単純に認知することにもなり、日常生活を送るうえで都合がよいことが多いのです。
ゲシュタルト心理学・3つの法則例
ゲシュタルト心理学では、人がある法則にあてはまるものを「同じグループ」=ゲシュタルトとして認識する、としています。
経験的に誰もが知っていることですが、改めて言葉にすると新鮮な発見があります。この分野は現在も研究されていて、新たな法則が付け加えられていますが、その中から3つの法則をご紹介しましょう。
近接の法則(Law of Proximity)
距離が近くにあるもの同士を1つのゲシュタルトとみなします。空間であればより近くにあるもの、時間で言えば二つの出来事の間の時間がより短いものです。
類同の法則(Law of Similarity)
似ているもの同士を1つのゲシュタルトとみなします。たとえば色が同じもの、形が同じものなどです。
過去の経験の法則(Law of Past Experience)
過去に経験した状況と似たものに出くわすと、それを過去のものと同じものと認識したり、解釈に影響を与えたりします。2つの出来事が短い時間のうちに起こると、より関連づける度合いが大きくなります。
ゲシュタルトの法則を利用する
グループ化して認知するゲシュタルトの法則の利用例として、見やすいディスプレイを考えてみましょう。たとえば食器売り場で商品を見やすく並べたい場合、どのように応用できるでしょうか。
まず「類同の法則」に従い、色の系統が同じもの(赤系、青系、黄色系など)、大きさが近いもの、形が似ているもの、一緒に使うものなどでグループ化して、ゲシュタルトを作ります。
つぎに「近接の法則」を応用し、すべてを同じ間隔で置くのではなく、同じグループのものを近づけて、グループの間には空間をとって配置します。これでグループが別々のゲシュタルトとして認識されやすくなります。
ゲシュタルトの法則にのっとった視覚的ディスプレイは、見る側にとって自然に認識されるので目に心地よく、互いが埋もれることもなく引き立ちます。
商品のディスプレイだけでなく、誌面やウェブサイトのレイアウト、コンピューターのヒューマン・インターフェイスなど、いろいろな形で応用されています。
錯覚も生むゲシュタルト
ゲシュタルトの法則は、人に「実際とは違う認識」をさせることもあります。たとえば自然にできた木目が目、鼻、口のように配置されていると、ひとまとまりで顔に見えます。心霊写真と言われるものには、このケースがたくさんあります。
また、社会でのグループ分けにもこの法則が当てはまっているのを見ることができます。性別や肌の色などは、代表的な「認識されやすいゲシュタルト」です。
個人個人の性質・人柄を知る前に、「あの人は女性だから」「○○人だから」というゲシュタルトごとの印象を優先しがちなことにも、法則が表れています。
私たちはものごとをより単純に認識したがったり、過去の経験と結びつけた認識を優先したりするものなのです。
まとめ
「人はゲシュタルトごとの認知を自然に優先する」という脳のクセを知っておくと、錯覚や安易な経験則への依存で失敗をする前に、「これは合理的な判断だろうか?」と冷静に考えるきっかけになります。
また、新たな認識をとりこんだとき、一時的に「ゲシュタルトの崩壊」を経験することがありますが、違和感が生じるのは自然なことだと慌てずに受け止められます。
さまざまな場面でこれらの法則を思い出し、より多角的なものの見かたに役立ててください。
