同調効果は、ミラーリング、ミラー効果などとも呼ばれる現象です。
一般的には、「好意を持っている相手と話しているとき、無意識のうちに相手のしぐさを模倣している」という現象をさすことが多く、それを逆手にとった心理的テクニックとして、「相手に好意をもたれたいとき、相手のしぐさをまねると効果がある」といった説明がよくされます。
自分のしぐさがまねられている、と感じることは、「相手は自分に好意を持っている」と感じることにつながり、そういう相手には好ましい印象を持ちやすいのです。
しかし、大人を相手にしたとき、しぐさをまねるだけで相手の好意を得られるとは言い切れません。
というのは、「テクニックで相手の好意を勝ち取ってやろう」という、相手を操作するような心理がなんとなく相手に伝わってしまう、という可能性もあるからです。
ですから、意識して相手のしぐさをまねる際は、あくまでさりげなく行うことが大切です。(子どもには有効なことが多く、それについてはのちほどお話します。)
しかし、心から相手に共感や敬意などを持っている場合、自然に模倣行動が出るのは事実です。
また、共感→模倣という流れだけでなく、模倣→共感という方向でも作用します。それは他者との関係をよくすることに役立ちますし、同調効果を自分に対して効果的に使って目標に近づくことも可能なのです。
子供の心をひらく
同調効果/ミラーリングは、ミラーニューロンと呼ばれる神経細胞によって起こります。
ミラーニューロンは脳の下前頭回、上頭頂葉に存在すると考えられており、ある行動をしている他人を見たときと、同じ行動を自分がしたときに、同じように反応します。
ここから、他者の行動を鏡のように映すという意味で、ミラーニューロンと名づけられました。正確には細胞単体というより、脳内の特定領域のネットワークで、ミラーニューロン・システムと呼ばれます。
このはたらきは、「目で見ている他人の行動を、自分がしているように感じる」ことにもつながります。
そこから、他人がけがをするのを見るとなんとなく自分の体がこわばる、元気な人を見ると自分も元気が出る、といった、同情や共感、感情移入など、他者との心理的なつながりを促していると考えられています。
この共感システムは、小さな子供とコミュニケーションをとりたいとき、しぐさをまねして見せると心をひらいてもらいやすい、ということでも知られています。
子供が大人のしぐさをまねしたがったり、逆に大人が子供の表情をまねると子供が喜んだりするのを、経験からご存知の方も多いでしょう。子供は大人に自然な憧れをもっていることが多く、また、その大人から共感のしるしを示されることを嬉しく感じるのです。
この場合は大人に対するときとは違い、遊びとしてはっきりとまねて見せます。このとき、子供との間にはあたたかい共感関係が生まれやすくなります。
これは一番自然な形での「同調効果」といえるでしょう。
技能を身につける
「目で見た他人の行為・行動を自分のものとして経験する」というミラーニューロン・システムの特性は、新しい技能を身につけるときにも役立っています。
たとえば、お手本になる手順・動作を繰り返し見ることは、実際にそのとき体を使うことができなくとも、その作業を覚えることに役立ちます。
スポーツ選手は、自分や他の選手の良いプレーを録画映像で繰り返し見ることがよくあります。
これも、「実際に体を使っているのと同じように脳が反応する」という、ミラーニューロン・システムの特性を効果的に使っているといえます。その体験を通して、「うまくいったときの動き」をシミュレートしているのです。
プロスポーツ選手でなくとも、なにかを自分よりうまくできる人のやり方を目で見ることは、その技能に習熟することを促進します。
この効果は身近にお手本になる人がいなくとも、最近はYoutubeなどの動画サイトで体感することができます。
あなたの興味のあること、たとえば手品や料理、英会話、ゲームのワザなどなんでも良いのですが、「うまくできた」例を収めたレクチャー動画がたくさんアップされており、そういった動画は、よく人気クリップにもなっています。
もともとなにかのやり方を見せるには、動画のほうが静止画とテキストの説明より分かりやすく、最近は投稿者の工夫もあって楽しいものも多くなっています。それらの「他人がしている映像」を見ることで、間接的に「自分の経験」として取り込むことができます。これも同調効果の一つです。
なりたい自分になる
同調効果・ミラーリングの意識的な使い道として、「自分に影響を及ぼす」という使い方は、日常的に役に立ちます。
たとえば勉強に集中しなければならないとき、おおぜいが勉強している図書館などに身をおくと、周りで勉強している人を見ることでその雰囲気に自然に染まり、集中しやすくなります。このように環境を利用することは、誰もがいつのまにか利用していることでしょう。
その応用として、同調効果から「なりたい自分になる」ことも可能です。憧れの先輩や有名人をまねることは、とくに意識せずにやっていることも多いものです。
しかし「どうなりたいか」を考えて意識的に「まねる対象を選ぶ」ことで、自分が受けたい影響を選択的に取り入れることができます。
さきほどの「技能を身につける」と似ていますが、ここではより広く、「物事に対する態度」や「ものの考え方」が表れた行為を意識します。
具体的には、人物として「こうなりたい」と思える対象を見つけ、その人が参考になる行為・行動をした場面をよく覚えておき、自分が同じようなことをする際に、頭の中で再生してみましょう。
好ましいと思う対象をお手本とすることは、ミラーニューロンを気持ちよく作動させる方法といえます。
また、同調効果はマイナスの方向にもはたらきます。自分が「そうしたくない」行為を見ること、おおぜいがそうしている場に身を置くことは、いつのまにかそれに染まってしまうことにつながります。
「他者の行為を見ることは、自分自身の経験と同じくらい影響がある」ということを知っておけば、望まない影響を避けることができます。
プラス・マイナスの両面を意識して、同調効果をより良く役立てましょう。