「年齢とともに、記憶力はどんどん低下していく」大半の人がそう信じているのではないでしょうか?
「新しく会った人の名前をすぐに忘れる」「知っているはずの固有名詞が出てこない」「忘れものをしたり、予定を忘れたりすることが多くなった」など、子どもの頃なら意識せずに、たくさんのことをすぐに記憶していたのに、歳を重ねるにつれ、最近はどうも…と自分の記憶力の低下を感じている人は多いはず。でも、それは単なる思い込みかもしれません。
その思い込みの原因は私たちの記憶を司る「脳」に関しての間違った理解にあります。
脳科学の発達がすごいスピードで進んでいる現代。一昔前まで信じられていた脳に関する考え方が覆されてきています。
ここに「年齢による記憶力低下のウソ」が隠されています。
まだまだ知られていない脳の無限の可能性を探りながら、何が「年齢による記憶力の低下神話」を信じ込ませてきたのか、また、歳を重ねても記憶力は低下していないのだとすれば、どんな方法でより物事を記憶することができるのかを探ってみましょう。
記憶担当-私たちの「脳」
さて、私たちの記憶を司っている「脳」。この脳に関して知ることで、今までの思い込みを変えることができます。
脳に関する研究は近年急激に発展を見せていますが、今もまだわからないことが多い分野でもあります。今までは、新生児の脳が最も細胞が多く、その後年齢と共に細胞が減少し、能力が低下する、と考えられていました。
しかし、近年の研究で明らかになったことは「脳は成長を続ける」ということです。
私たちの脳全体には100億個~1000億個の細胞があると言われています。その細胞は生まれたときを境に増えることはなく、逆に歳と共に減少していく、と長い間考えられてきました。
私たちの体の多くの細胞は、生後細胞分裂によって増えることはなく加齢とともに減っていきます。
脳の細胞に関しても同様で、脳の神経細胞(ニューロン)が19世紀後半に発見されて以来、100年余の間、脳細胞は再生することも、新しく生まれることもなく、逆に減少していくと考えられていました。
100年もの間、その考え方をベースに脳科学が進んだのですから、間違った思い込みがあったとしても不思議ではありません。
1998年-その考え方は覆されました。
それは年齢に関係なく、脳内に一生涯増え続ける細胞「新生ニューロン」の存在が確認されたことに起因します。
新生ニューロンは、私たちの記憶の中枢として知られる大脳辺緑系の「海馬」という部分で見つかりました。
この「新生ニューロン」は、神経幹細胞と呼ばれる細胞がニューロンに分化する事で生じる、とされています。まだ多くのことが解明されていない状態ですが、この「新生ニューロン」が人間の「記憶力」と関係していることが着々と解明され始めています。
シプナスの存在
さて、脳に関してのキーワード「新生ニューロン」と同様に重要なワードは「シナプス」です。
脳の神経細胞である、ニューロン同士を結び付けるのが「シナプス」です。実は、新生児の脳は、成人とほぼ同じ状態で生まれてきます。
大脳、脳幹、小脳などの脳の部位や内部のネットワーク構造なども含め、大きさ以外はほぼ成人の脳と変わらない状態なのです。(下図参照)
しかし、脳の神経細胞同士を結び付ける接続部位「シナプス」の形成は生まれてから始まります。シナプス形成は生後6か月から12か月にかけて急激に増え、その後減少していくということがわかっています。
年齢によるシナプスの減少=能力の減少と理解していませんか?それも単なる思い込みです。重要なのは「数」ではなく、「質」だと言われています。
生後6か月から12か月に急激にシナプスが増えるのは、誰もが初めての体験をする時期だからです。見るもの聞くもの触れるものすべてが新しく、その全てを吸収し脳内で新しいネットワークを形成していきます。
その後、シナプスが減少していくのは、必要なシナプスを選び強化していくためです。生きるためにより必要なものを選び、脳内のネットワークを整えていく作業です。
そして新生ニューロン同様に、年齢に関係なく新しいシナプスは作り出され、使えば使うほど肥大し、ネットワークを広げていけることも分かっています。
さて、記憶を司る脳が実はどのようなものだったか、ということがわかると、「年齢と共に脳の細胞は減る一方。だから記憶もあいまいになるし、固有名詞もどんどん出てこなくなる…」という言い訳はもう通用しません。
新生ニューロンもそのニューロンを繋げるシナプスも増やすことができるのであれば、記憶力の低下は年齢によるものでもなく、また細胞の減少でもなく、脳の利用度合いに関係していくと言えるのではないでしょうか。
記憶のメカニズム
「大人にもできる脳細胞の増やし方」の著者・久恒辰博さんは、著作の中で以下のように書いています。
“記憶は一体どのように生み出されているのか。(中略)それは「回転力」によって生み出されている。海馬に入ってきた情報は、必要かどうか判断され、必要なものはより定着しやすいような処理をされる。それが情報の「回転」なのである。”
大きく言うと、脳の中の「海馬」と「大脳新皮質」いう器官が、私たちの体の記憶担当です。五感から入ってきた多くの情報は「大脳新皮質」でキャッチ、側頭葉を経て海馬に入る。その情報の入り口が先に書いた「歯状回」=「新生ニューロン」が生まれる場所となります。
多くの情報の中から、重要な情報を選択し、その選択した情報を「大脳新皮質」が整理整頓し、系統立てて保管をします。
さて、ここで重要になってくるのが「回転」です。必要な情報はより回転数を上げて、海馬の内部をぐるぐると何度も回転する。何度も回転することによって情報は記憶としてより定着します。
逆に必要ない情報はあまり回転させずに素通りさせてしまうので、記憶としてはあまり残らないとされています。
さて、ここまでわかってくると、私たちの「記憶」との付き合い方がわかってきたのではないでしょうか?つまり、記憶をより定着させるためには海馬を活性化し「回転数を上げればいい」ということです。
海馬を活性化させる方法
これが何よりも気になる部分。脳の働きも、記憶のメカニズムもある程度理解できた!では、どうすれば、記憶力をアップできるのか?その方法をいくつか次のページでご紹介しましょう。