「脳」は、私たちが生きていく上で、欠かせない非常に大切な器官です。
呼吸、心臓の動き、消化などの生命活動を支え、さらには感情や思考なども司っている、身体の中で一番重要な役割を持っていると言えるでしょう。
脳の重要な役割は誰もが理解しているものの、その実態はいまだ謎に包まれています。世界中で行われている脳科学研究によって毎年新しい発見が発表されます。
それだけ解明されていないことが多いのが脳であり、同時に多くの可能性を秘めているものであるとも言えるでしょう。
今回はその謎多き、脳の不思議を探ってみましょう。
脳の取扱説明書?
未知なる脳の不思議を利用した実践心理学があります。
近年、日本国内でも注目されているNLP(エヌエルピー)。NLPはNeuro Linguistic Programの頭文字を取ったもので、日本語では「神経言語プログラム」と呼ばれています。
アメリカで研究開発されたこの心理学は、心理カウンセリングの分野に留まらず、教育機関や一般企業などでも用いられるようになりました。
私たちは日々、身体の五感を使い、情報のインプット・アウトプットを行っています。そして、その情報が無意識の内に脳内でプログラムを作ります。犬に追いかけられた経験から犬嫌いになる人を想像すると分かりやすいでしょう。
私たちの脳は不思議なもので、1度の衝撃的な経験によってプログラムを作ります。多くの場合、それは同じ行動によって精神的・肉体的なダメージを受けないように、という自己防衛のプログラミングとなることが多いでしょう。
NLPは別名「脳の取扱説明書」とも言われています。
無意識に作られる、脳内でのプログラムですが、少しでも、脳の不思議を理解できれば、自分の身体ともっとうまく付き合うことができ、さらには、自分の思考や物事の受け取り方などをプラスに導いていくということも可能かもしれません。
様々な脳の不思議の中から、今回は3つの不思議な特性を見ていきましょう。
脳は素直―。否定形を理解しない?
不思議の多い脳は、一見小難し存在に思われがちですが、実はとっても素直な一面があります。脳は「否定形を理解しない」と言われています。理解しないというよりは、「イメージできない」とい表現のほうがあっているかも知れません。
例えばー
「キリンを想像しないでください」と言われると、自分の頭の中にあ「キリン」が浮かんだのではないでしょうか?「明日は絶対に寝坊しないぞ」と強く思うと、なぜか寝坊してします、という経験がある人もいるでしょう。
これは、私たちの脳は「肯定系」をより理解する証拠です。
「キリンを想像してださい。その上で、キリンを消してください」
と言われれば、キリンの姿が頭に浮かぶものの、そのあと、黒い幕などでキリンを覆って消してしまえばいいのですから、先の否定形よりも想像が容易ではないでしょうか?
この脳の不思議な素直さを活かし、日々の生活の中で肯定的な文章を自分に対して、また周りの人に使うことで、よりコミュニケーションが円滑になったり、自分の伝えたいことなども理解してもらいやすくなるのです。
例えば、つい遅刻を繰り返してしまう人には「遅刻しないぞ」というメッセージではなく、「朝は余裕を持って起きて、落ち着いて準備ができる。
7時半の天気予報を見終えたら家を出よう」など、より具体的に、そして肯定文で自分へのメッセージを作り脳のインプットしてみてください。
もちろん、これは部下や周りの人への言葉がけも同じ。「もう失敗するなよ!」というよち「次は上手くいくよ!」と声をかけてあげる方が、相手の脳はインプットしやすく、次の行動へ移しやすくなります。
脳は一途!?
素直でピュアな脳は、一途でもあります。実は、一つのことに没頭してしまう面があるのです。これは、「焦点化の原則」と言われる脳の特性です。
体のすべてをコントロールする需要な役割を担っている脳―。オールマイティな高機能コンピューターのようなイメージがあるかもしれませんが、実は多くの事を同時に意識するのは難しく、無意識に一つのことに焦点を絞ると言われています。
感情面で考えると分かりやすいかもしれません。
何かにイライラしているとき、テレビを見るとそこには可愛い子犬が遊んでいるシーンが。「あ、かわいいな~」と感じたその瞬間には、もう「イライラ」は感じていません。脳が同時に二つの事に意識を持ち、焦点を合わせることは困難なことなのです。
パーティーで気になる人がいた場合、その人ばかりに意識が集中します。後からその時の事を振り返っても、他に誰が来ていたのか、何を食べたのか、誰がスピーチをしていたのか、など、意識の向いていなかった事柄に対しては思い出せないでしょう。
脳は意外と一途な一点集中型なのです。
この特性を利用すれば、先にあげたように「イライラ」している感情を取り除くこともできます。
また、そもそも「複数の事に意識しよう」という1点に焦点を当て、通勤電車の中でいつもは意識していないような広告や外の景色、乗客、電車の動き、音、などに意識を向けてみるのもを面白いかもしれません。一途な自分の脳の存在を感じ取って見てください。
脳は痛みを嫌い、快を求める
これは日常の生活から誰もが実感しているでしょう。私たちの脳は、「痛みを避けるような思考や行動をとるときと快につながるような思考と行動をとるときに最大限の力を発揮する」[2]と言われています。これは明らかに本能的な生存欲求の現われです。
ここで言われている「痛み」とは「不快」だと感じること、そして「快」は心地よいと感じることです。「快」や「不快」を判断するのは、私たちの脳の中央にある扁桃体の働きだということが分かっています。
生命維持など本能的な働きを司っているのが、この偏桃体です。
この偏桃体が、心地よい「快」は「安全」、痛みを伴うような「不快」は「危険」と判断するのです。生命維持を最も優先する私たちの脳が、長い進化の過程で作りあげてきた生命維持のための特性です。
その結果、「快」「心地よいもの」に対して、脳は積極的になり、逆に「痛み」「不快」「危険」なものは避けるように無意識に行動することになるのです。
この特性が分かれば、対処法も浮かぶでしょう。
危険な道にわざわざ踏み込む必要はありませんが、仕事やプライベートで、どうしても苦手なタイプの人間と会わなくてはいけない、食事をしなくてはならないというような状況で、「不快」を少しでも「快」に切り替えてみることに挑戦してみてください。
苦手な相手であっても、何か一つでも自分が好きなところ、好意をもてるところを探してみましょう。「服のセンスがいいから見習いたい」「しゃべり方がハキハキしているから真似をしたい」など、自分にとってプラスになるような要素を見つけ、その時間を「快」だと脳が判断できれば、脳はそのことに対して一生懸命動いてくれるのです。
まとめ
私たちの脳は、自らコントロールできない。「勝手に無意識に動いている」と思いがちかもしれませんが、脳も自分の身体の一部です。
体の他のパーツに比べ、脳は自分が思うように自由に動かせるわけではありませんが、脳の不思議な特性を理解し、その不思議さを魅力的だと捉え、自分の脳とより仲良くなってみてください。
私たちの脳は、否定形を受け入れられない純粋さを持ち、ひとつの事にまっすぐな一途さを持ち、そして心地よさを求めるー。
さらには、「不快」を「快」だと騙せれば、そのために力も発揮してくれるー…。オールマイティな優等生というよりは、つっこみどころ満載の愛らしい存在かもしれません。