ストレスを過敏に感じてしまう「ストレス脳」。そこからくる「集中できない」「頭がぼんやりする」「ちょっとしたことでパニックになる」……といった症状を訴える人は、ここ数年増えています。
年齢に関係なく起こり、おもな原因は「脳の使いすぎ」だと言われています。
この「脳の使いすぎ」とは、いったいどういう状態でしょうか。従来のストレスと「脳の使いすぎ」は、いったい何が違うのでしょうか。
今回は現代人に急増していると言われる「ストレス脳」の原因と、具体的な予防法・対処法を探ります。
そもそも「ストレス脳」とは
まずは「ストレス脳」そのものからおさらいしまいしょう。脳がなにかのタスクを処理するとき、脳には負荷=ストレスがかかります。
すると脳の「前頭前野」という部分の血流が増えて、活性化します。前頭前野の右側は不安・怒りなどのネガティブな感情に関係し、左側はポジティブな感情に関係するといわれています。
ストレスが加わったとき、右側の血流がアンバランスに多くなってしまうのが「ストレス脳」です。
同じ量のストレスでも、「ストレス脳」は健康な脳より不快で強いストレスを感じてしまい、結果として落ち着きを失ったり、パフォーマンスが落ちることにつながります。
ストレスはなければいいというものではなく、適度なストレスは脳を健康に保つのに役立ちます。通常、脳はストレスを受けても、それに対処して回復することができるのです。
しかしそのストレスが大きすぎたり、小さくとも長期にわたったりすると、回復できない状態になり、脳の機能が損なわれてしまいます。
「ストレス脳」は同じ量のストレスでもより大きな負荷を感じるので、それが脳機能に影響するリスクも高くなります。「頭がぼんやりする」「集中できない」などは、まさに「軽微な脳の機能不全」といえます。
「ストレス脳」の対処法としては、アロマテラピーなどを利用したリラクゼーションが効果的だと言われています。それらとともに、原因となる「脳の使いすぎ」を減らすことがとても大切になります。
インターネットと「脳の使いすぎ」
現代人のライフスタイルはさまざまであり、「ストレス脳」の原因を一つに特定することは不可能です。
しかし、「頭がぼんやりする」「集中できない」など、注意力が散漫になる症状は、過度のインターネット利用の弊害という文脈でも、2010年前後からクローズアップされてきています。
まさに「脳の使いすぎ」の原因となっているこの問題を、ここでは見ていきましょう。
ネットの表示画面
ネットの画面は、そもそもが気を散らすようにできています。
たとえばある言葉を検索すると、ヒットしたページのリストの横に、そのキーワードを元に抽出された「あなた向けの」広告も並びます。それらはすべて、あなたの興味を引こうとします。
人間の脳は、文字の羅列を「意味のある言葉」だと認識すると、瞬時に「意味を読み取る」モードになります。あなたは言葉の意味を理解し、リンクをクリックするか、あるいはやめるかを判断します。ネットで情報を渡り歩くとき、私たちはその負荷を脳に与えつづけているのです。
マルチタスク
関連した近年の問題は、「マルチタスク」です。コンピュータが同時にいくつもの仕事をこなすように、人間にも同様のことが要求されるようになってきました。
ネットで資料を検索しながら書類を作り、その間にもメールや電話が飛び込んでくる……そんな状況は「集中」を許しません。人間の脳が同時に処理できる情報量は限られており、マルチタスクはたいへんな負担になります。
これらの作業を繰り返すと、脳自体が変わってきます。ネットで文字を拾い読み・流し読みする能力が発達し、代わりに一つのものに集中する能力は弱くなっていきます。使わない筋肉が衰えるのと同じで、この影響はオフラインでも持続します。
2009年にスタンフォード大学で行われた実験では、マルチタスクが認知能力に与える影響が確認されました。
実験では、オンラインでマルチタスクを頻繁に行っているグループは、そうでないグループに比べ、無関係な刺激に反応して注意が散漫になりやすく、特定のタスクに集中を維持することが苦手だという結果が出ています。
「脳の使いすぎ」によるストレスを減らすには
こういったストレスの元を完全に断つことは難しく、100%の解決法はまだ存在しません。しかし、その影響を軽減することはできます。対処は大きく分けると、
- 受けたストレスをまめに解消する
- ストレスそのものを減らす
の2種類です。
受けたストレスをまめに解消する
1.自然に触れる
2008年にミシガン大学で行われた実験では、写真を見るだけでも効果があることが確認されています。
この実験では、脳に負荷のかかる認識テストを二つのグループで行い、一方には田園風景の写真を、もう一方には都会の写真を見せたあと、再びテストをしました。
田園風景の写真を見たグループは、そのあとのテストで、もう一方のグループよりもかなりの好成績を出しました。写真を通して自然に触れるだけでも、脳を回復させる効果があったのです。
2.「休憩=回復の時間」を組み込む
休憩はわかっていてもなかなか取れないものですから、仕事の一部としてスケジュールに組み込むことが効果的です。
人間が集中できる時間のサイクルは15分単位と見るのが一般的で、大学生世代で90分、普通の大人の平均値は45分程度と言われています。
その区切りごとにいったん席を立つ、ストレッチをする、窓の外を見るなど、短時間「モードを変える」ことで、ストレスの蓄積を軽減できます。また、休憩を挟むことで、全体としては処理効率があがります。
ストレスそのものを減らす
1.マルチタスクを避ける
一つの仕事をしているときには、別のことをしない。簡単なことのようですが、意識することが必要です。
まずは仕事をするとき、机の上にその仕事に関係ないものを置かないことを心掛けましょう。これは地味な方法ですが、たいへん効果的です。
2.インターネット安息日をもうける
ネットに接続しない日を作るというこの大胆な方法は、かなりの決意がいります。しかし、実践した人々はいます。
その一人ウィリアム・パワーズは、著書『つながらない生活―「ネット世間」との距離のとり方』(2012年プレジデント社/原著の発行は2010年)のなかで、家族全員が週末にネットから離れられるよう、金曜の夜にモデムの電源を切った試みについて書いています。
初めのうちこそ不便を感じたものの、次第に週末が楽しみになったといいます。現在はスマホが普及しているためより難しいかもしれませんが、接続時間を制限することには効果があります。
3.自分でバランスをとる生活
「コンピュータの電源を切りましょう。携帯電話の電源も切って、周囲に溢れる人間らしさを発見したいものです」
この言葉を語ったのは、なんとグーグルの元CEOエリック・シュミットです。しかし根本的には、ネット企業はユーザーが接続することで収益を得ており、積極的に「ネット接続を絶ってください」とあなたのアクセスを拒否することはありえません。
またネットの恩恵は大きなものであり、仕事はもちろん、感情を伴った大切なつながりの多くも、ネットを介して成り立っています。接続をまったく絶つということは、現代人にとって難しいことでしょう。
私たちは自分で自分の行為を制御し、ネットがもたらすメリットと、同時にもたらされるリスクとのバランスをとっていく必要があります。まずはそのリスクを意識することが、理想的なバランスを探る第一歩となるでしょう。
